2017年5月26日金曜日

伝染する敏感さ -フット・ロッカーQ1決算-

 退屈かもしれないけれど、基本的な確認事項から始めてみよう。
 フット・ロッカー(FL)は北米・欧州を中心に3,354店舗を展開する世界最大の運動靴販売チェーンだ。熱狂的なスニーカー・フリークからすると「違う、一緒にするな」と言われそうだが(もちろんフット・ロッカーの方が格上という意味)、ナイキとの結びつきが極めて強く、同ブランドの売上がかなりの比率を占めることを除いて、投資家的にはまあABCマートみたいな存在だと思ってもらえれば事業的には大差ない。
 業績もABCマートに輪をかけて素晴らしく、毎年2桁のEPS成長を長年継続している。そして何より重要なことに、足元の実績PERは13倍程度に過ぎない。

 そんなフット・ロッカーが今週、2017年Q1決算(2-4月期)発表を行った。
 コンセンサス予想に対してEPSで1.4%、売上で1%だけコンセンサスを下振れた。ついでに言うと、リテール企業で最も重要なKPIとされている既存店売上高は、1.4%増加を見込まれていたところ0.5%の増加にとどまった。なるほど、確かに失望的かもしれない。

 そしてこれが引き起こした株価変動はいかほどだったか。
 マイナス16%がその答えだ。
 市場はなぜこのようなリアクションを取り、何をディスカウントしているのだろうか。

 当ブログでも何度か言及している通り、北米小売業は過去2年、悲惨な業績を辿ってきた。百貨店、ディスカウントチェーン、アパレルブランドなどの既存店売上高が、破壊者アマゾンによってマイナス2桁というのが特に珍しくもない光景となっているのだから、文字通り壊滅的と言うしかない。
 そんな中、フットロッカーは小売業者の中では数少ない成長企業であり続けた。それがたった1四半期、売上・利益が横ばいになっただけでマイナス16%の暴落。2-4月期の既存店売上高が小幅な増加にとどまったのは、米国の税還付が遅れて2月の売上に大きなマイナス影響を及ぼしたためで、3,4月は1桁台中盤の売上成長に戻っているとの説明が経営陣よりあった(スニーカーの主要な購入層であるティーンたちは、親の財布事情に購入タイミングを左右される。昨年はこの時期に還付されていた税が今年は還付されず、ティーンのスニーカー購入にゴーサインを出さなかったというわけだ)。同時に、スローダウンはサイクルではなく、あくまで一時的な要因だと強調していた。投資家はこれを完全な言い訳とみなした。むろん私も無条件で信じようとは思わない。税還付スケジュールの遅れで売上に影響が出たのは当四半期最初の2月であり、その後3,4月の2ヵ月でも完全にその売上減を挽回しきれなかったというのは、果たして本当かと思わざるを得ない。

 しかしもう一度思い出そう。フット・ロッカーはついこの前までオンラインショッピングの脅威に耐性を見せ、順調に成長を続けていた上、予想PERは10.5倍、なのだ。まともな環境であれば、この程度のつまずきが極端な暴落を誘発するはずがない。

 投資家は伝染性の疑心暗鬼に感染している。シアーズが、メーシーズが、JCペニーが、ターゲットが、ダラーツリーが、ヘインズブランズが、ラルフローレンが、その他数々の小売企業、アパレル企業が目に見えてアマゾンの餌食にされているのをたっぷり見せつけられて、フット・ロッカーよ遂にお前もかと、そういう気持ちになってしまったのだ。そしてまた次の四半期に絶望的な知らせが届けられることを心配して、我先に株を売り払った。今回の暴落の背景は、多分この程度のことだろう。
 もちろん、本当に何らかの変調がフット・ロッカーにも訪れた可能性はある。私は長らくフット・ロッカーを数値面で観察し続けてきているので、感覚的にQ1の減速は心配に及ばないと高をくくっている。今、一部の小売企業を襲っている株価低迷は、相次ぐ訴訟を恐れて絶望的なほど叩き売られていた21世紀初頭のたばこ会社を彷彿とさせる。たばこ会社は強く、訴訟リスクにより押さえつけられた株価はその後、投資家に莫大なリターンをもたらした。アマゾンリスクにより他の弱い小売企業と一緒になって株価が押さえつけられているごく少数の強力な小売企業は、この後、たばこ会社と同様に素晴らしいリターンをもたらすだろう。フット・ロッカーはそういう企業の一つだと私は思っている。
 根拠はない。

 で、買い増すのか。多分ボーナスの一部はつぎ込むことになる。他にも欲しい銘柄が出てきているので、それらと一緒に少しずつ買い増すだろう。Q3決算発表までは、何となく株価は復調しない気がするので、急ぐ必要もなさそうだ。

2017年5月20日土曜日

フィンテックが既存の金融機関に及ぼす影響

 そこそこ活況を呈している「ご意見・ご質問・ご要望箱」で、前々から記事にしてみたいと思っていたご質問を頂きましたので、この際、Q&Aという形でまとめてみたいと思います。


[Question]
今後既存の銀行、保険やV.MAはどこまでフィンテックの猛追を受けると考えますか?


[Answer]
フィンテックの影響について、銀行・保険組と、クレジットカード決済組は分けて考えた方が良さそうです。

まず銀行の最大の強みは膨大な預金によって確立されており、テクノロジーがどうとかというレベルで覆すことが不可能なものです。どれほど優れたテクノロジーを駆使しても、短期間で大手行と同じ百数十兆円に及ぶ預金残高を積み上げることは出来ません。そして「金を貸して利ざやを得る」という資本主義の根幹をなすビジネスモデルが廃れることもありえない。したがって、銀行にとってのフィンテックは脅威というよりは安全性を高めたりビジネス効率を上げる補完の役割を果たすでしょう。もっとも、非貸出業務の領域(多くの銀行で金利収益と同じくらいの割合になっている)ではフィンテックに浸食される部分も出てくることと思いますが。保険準備金残高の多寡が企業の強さに直結する保険会社も銀行と同様です。
参考記事:ライフネット生命で保険会社を学ぶ

次にビザやマスターカードなどのクレジット決済大手に対するフィンテックです。カード会社は金融というよりテクノロジーとネットワークに強みがあるので、テクノロジーがその名の由来となっているフィンテックは確かに将来的に競合として立ちはだかりそうな気がしなくもありません。しかし、PayPalやAlipay、スクエアなどをフィンテックの文脈で語っていいのか定かではないですが、これらの新興決済勢力が既存のカード会社を死に追いやるとまでは考えていません。なぜなら、プラスチックカードを持ち歩いて店頭で提示する行為がスマホ決済に取って代わったところで、我々の利便性は大きく向上したりはしないからです。利便性を訴えてシェアを取ることが難しいのであれば泥臭く価格で勝つしかありません。これから決済市場を支配しようと目論むフィンテック勢は、小売店などに決済手数料の大幅なディスカウントを提示しなければシェアを取れない。その圧縮された利幅を前提にして、自力で決済ネットワークを広げていく資金力と潜在顧客基盤を持つ企業は非常に限られていると思います。

その会社とはどこになるでしょう。
Apple Payについて言えば、決済ネットワークはVやMAのものを使用し、自身はほとんど手数料を得ていません。アップルはApple PayをiPhoneに消費者を縛り付けるためのツールとして位置付けています。つまりApple Payは既存カード会社の脅威とはならない。Line PayもJCBのネットワークを使用しており、決済サービスはあくまで自社のSNSサービスに利用者を囲い込むために提供しているように感じます。
次に既に日本人の想像をはるかに超えるキャッシュレス化が進んでいる中国勢はどうでしょう。アリババのAlipay、中国版LINEを提供するテンセントのWeChat Paymentは、銀聯カードと並んで中国国内の決済を完全に牛耳っており、しかも自前の決済ネットワークを構築しています。タクシーでもコンビニでもスマホで簡単に決済できる。そういう社会が中国では実現しているのです。まさに大手カード決済会社にとって脅威としか言い様のない現実です。ただ、両社のこれまでのサービスや企業動向から考えると、中国を超えて世界標準になる予感はしません。アリババもテンセントも、インターネットショッピングサイトやSNSという既存サービスとのシナジーと圧倒的知名度を最大限活用したからこそ決済サービス網を急速に広げられたと思いますが、例えば北米の小売業者が自国で目立ったサービスを提供していないアリババやテンセントの決済網をこぞって採用するイメージが湧いてきません。

将来的に自力で決済ネットワークを構築し、割安な手数料でVやMAを脅かすほどのシェアを獲得していく可能性のある企業の最右翼はやはりアマゾンになるでしょう。アマゾンは世界中の人間に知られていて、その小売事業は決済サービスとの相性が良いです。アマゾンはアップルほど空気を読みません。アマゾンはフェイスブックほど既存事業との補完関係を重視しません。アマゾンにはベンチャー精神と同時に覇道の気質があります。そしてアマゾンは目先の利益にこだわらず、値引きが得意です。

あとはブロックチェーンですか。決済の安全性を担保する技術としてのブロックチェーンは今後、大手企業に取り入れられていく可能性が非常に高いと考えていますが、ビットコインなどの仮想通貨とセットで語られる場合のブロックチェーンは、カード会社にとってさほど脅威とは思えません。仮想通貨は値動きが激しいため価値保存手段として致命的な欠点を有しており、それは今後も変わらないでしょう。

以上が私の見解です。私は既存カード会社のビジネスモデルの将来性についてそれほど大きく危惧していません。すでに述べた通り、競争が起こるとしても、テクノロジーの戦いではなく、単なる値引き合戦が繰り広げられるだけだと考えるからです。

2017年5月15日月曜日

何と不憫な、暴落を経験できぬとは

 暴力的な下げ相場は、しばらく来ないだろう。人類が永久にバブルを回避するほど思慮深くなったとは全く思わないが、実体経済やそれを支えるクレジット、株価指標などをぼんやり調べたり眺めたりしていても、数十%の株価暴落を誘発する事象やセンチメントの悪化が今後数年内にやってくると信じることができない。銀行のバランスシートは健全化する一方だし、怪しげな金融商品が大規模に跋扈しているという噂は聞かない。足元の経済成長は未だかつてないほど設備投資に頼っておらず、景気悪化の萌芽も見えない。テロリズムは世界を変えないし、真偽不明で雑多な情報はノイズとなって投資家の情報感度をむしろ低下させている。不動産価格が心配だという人がいるかもしれないが、せいぜい"ブーム"の範疇であり、価格下落は経済を破壊する力を持ってはいない。

 私の妄言が正しいとすれば、あなたは悲しむべきだ。私も同情してあげよう。特に数年にわたる強気相場で調子に乗っている若者に対して。暴落を経験できないなんて、本当に可哀想に。

 こんなことを言うのも、私の恥の経験からだ。金融危機前の投資家としての私は、客観的に見てまさに恥そのものだった。自信過剰で全能感に満ち、努力しないのにもかかわらず自分の株式市場での振る舞いが全て良い結果に落ち着くと本気で信じていた。なぜなら私は、少なくとも私の基準で本当に何でも出来ていたのだ(鼻持ちならない若造!)
 そんな増長した若造が2008年の金融危機で鼻っ柱を折られた、そういう話だろうと。いいや、実のところ全く折られていない。確かに当時、550万円程度で運用していた資産が250万円程度まで減少したが、私の自己肯定感はたかだか数百万円を失ったという程度ではビクともしないものだった。恥の多い生涯を送ってきました、などとめそめそしている太宰なんぞと一緒にされては困る。凄まじい勢いで減っていく株式評価額は、しかし私を冷静にさせた。
 "おそらく何をしていてもこの結果は避けられなかったろう、不可抗力だ、だが俺はこの後株価や経済が回復するのか沈み続けるのか現時点において想像することさえできない、俺は何も知らない、金などどうでもいいがこの状態は非常に屈辱的だ、よくよく考えてみれば俺は自分の能力を過信する一方でひどく過小評価もしていた、株式市場は情報収集と分析力に長けたプロたちが隅々まで網の目を張り巡らせているので、どの教科書にも書いてあるような基礎知識を個人投資家が学んでも何の足しにもなりはしないと決めつけていた、俺がくそツマラナイ勉強をすっ飛ばして好きなように振る舞ったのはそれが理由だ、しかし俺の情報処理能力を形作っているものは一体なんだ、それこそひた向きな基礎勉強ではなかったか、なぜ学校や仕事では勉強しなければ上手くいかないと知っているのに、株式投資では勉強が必要ないなどと驕ったのか、俺は明確な誤りを犯し続けていた、株式投資に必要な知識は今までやってきた勉強の延長線上にはない、この金融危機をうまく乗り切ることはもう諦める、諦めてメディアの言うことを片っ端から読み込み少しでも状況を咀嚼することに専念しよう、海外メディアが良いと直感が言っている、同時に基礎勉強を明日から開始する、幸い俺は経理だ、まだ原価計算しかしたことがないがどうやら俺は経理に向いている、数字を使って分析することに向いている、会計知識は仕事をしているうちに自然と身についていくだろう、すると足りないのは金融、経済、バリュエーション理論だ、正直なところ経済学なんて馬鹿にしていたが、もはや馬鹿にする資格がないほど俺に経済の知識がないことが明らかとなった、事は学部1年生のつもりで取り組む必要がある、すなわち大学の経済学テキストを購入する、今さらながら俺はなぜ法学部など選んだのか、何の面白みもない学問だった、経済学が法学よりは面白いことを今から願うとしよう"
 そして私は本当に勉強した。基礎勉強が一通り終わった後は、自分で考え続けた。それなりに誇れる結果がこのブログにも表れていると自負している。

 そんなこんなで私はいまだに自信家のままだが、それでも確かに暴落は私を変えたのだ。若い投資家の方々を見ていると、当時の私など及びもつかない謙虚さと勤勉さを既に備えていて本当に眩しい。そして暴落という外的変化でその成長が加速するのを見てみたい。だから、冒頭の暴落が来ないという予想が、本当に私の妄言で終わってくれることを心底願っている。

2017年5月10日水曜日

意味ないシリーズ2 -パフォーマンスランキング-

 前回記事にて含み損益管理の(私にとっての)無意味さを説明したので、その流れでもう一つ無意味な指標をネタにしてみたい。対象は投資パフォーマンスランキングだ。

 私はここで株式投資ブロガーの自己申告値を集計し、パフォーマンスランキングを公表している人気サイトを批判する意図はないことを始めに申し添えておく。あのサイトはあくまでお遊びとしてそういったランキングと戯れているのだろうし、参加者の大半もこれから私が主張することは百も承知で参戦しているに違いない。したがって、この記事は誰に向けられたものでもないツマラナイ独り言で、読まれる価値に乏しいものになる可能性がある。だからサラッと行こうじゃないか。

 ところで皆さん、目標リターンってあるだろうか。ツイッターやってた頃はよく年率20%が目標とプロフィール欄に書いたりしている投資家を見かけたものだが、ツイッターやめる頃にはそんな投資家たちもすっかり現実的になり、目標リターンを口にしなくなっていた、そんな印象が残っている。
 まあでも、不可能であるということに目を瞑れば、年率20%目標も別に悪くない。あなたがまだ20代前半の投資家で、手元資金が100万円とかしかないのであれば、年率一桁のリターンなんて物足りないなんてものじゃないだろうから。
 で、年率20%だけど、どうやってそんな数値を叩き出すつもりですか。なになに、優れたファンダメンタルズ分析で有望な小型成長株に集中投資。頑張ってください。まあ銘柄選別眼頼りもいいけれど、それだけじゃ年率20%をコンスタントに叩き出すのはどう考えても無理ですよ、実際。毎年100万円を追加入金して、それを20%で運用し続けられたなら、定年する40年後には運用資産88億円。妄想はタダだから無理だと思わない自由は存分に満喫しても誰も文句は言わないが、まあ無理でしょ。銘柄選別だけで無理ならどうするか。そこで信用取引だ。レバレッジこそ平凡なリターンを増幅してくれる素晴らしい金融的解決策。実際、パフォーマンスランキングの上位に並んでいる数十%のリターンをあげている投資家には信用取引を駆使している人が多いのではないだろうか。あとは1銘柄か2銘柄の集中投資でたまたま当たりを引いた人とか。そしてそういったリスキーな投資手法を選択している人は、若くて、手元資金が少ないはずだ。失うものが少なく、失っても挽回する時間がある人にとって、過剰に見えるリスクは最適解になり得る。(若くなくて、手元資金の多い人がそんなリスキーな投資手法を採っているのなら、遅かれ早かれランキングから消える運命にあるのでここでは語るに値しない)
 ただ、パフォーマンスランキングはそれらのバックボーンを何も語ってはくれない。ハイパフォーマンスの投資家の年齢も、運用資産も、分散の度合いも、何も語らない。あるのはただ、年初来パフォーマンスのパーセンテージだけだ。運用資産100万円のリスクを取った運用と、運用資産1億円の勝ち逃げモードの運用が、百分率というたった一つの基軸で同列に比較されている。

 繰り返しになるが、パフォーマンスランキングの管理者も参加者もそんなことは分かっているであろうことは承知している。ただ、ウブな投資初心者が、どうしても目立ってしまうあのサイトで、成績上位者のブログを訪ね、(当人にとっては最適解であったとしても)バランスを欠いた投資手法をお手本にしてしまうようなケースが少し頭をよぎったので、何となく言及してみたい気持ちにさせられた。

2017年5月4日木曜日

含み損益を気にしない理由

 私が毎月ポートフォリオを評価額付きで開示しているのは何もその金額を誇示しようとしているわけではない。過去に10倍株を複数購入しただとか自慢したり(もっとも10倍になるまで持っていた株なんてないが…)、そういった自己顕示欲とは多分私は無縁だ。
 開示の理由は主に二つあって、格好良い方から先に言うと、継続的な元本投入と退屈な銘柄からなる凡庸なリターンの組み合わせだけで簡単にそれなりの資産を築くことができるというモデルケースを提示したいと思っている。理論や理屈を語るだけでなく、私自身がその実践者たろうとする株式投資ブロガーとしての矜持の表れであると捉えてもらって構わない。
 もう一つの理由は、ブログにストーリーを導入しようという少しばかり卑しい心によるものだ。みなさん、ストーリー、好きでしょう。人の資産評価額が上に行ったり下に行ったり。頑張れと思うのか、大損しろと願うのかはあなたの心の清らかさ次第なのでしょうが、いずれにせよ無味乾燥な屁理屈ばかりこねられるより少しは楽しいんじゃないだろうか。

 本題とだいぶ離れた話題にスペースを費やしてしまった。当ブログの毎月のポートフォリオ開示に各銘柄の時価は表記されているものの、含み損益率の情報がないのは、別に含み損ばかりで恥ずかしいからとか、逆に巨額の含み益で自慢になってしまうのを心配しているからというわけではもちろんない。タイトルにもある通り、私が含み損益率や額を一切気にしていないからだ。
 投資の初級本によく書いてある言い分としては、「自分の購入価格を意識するあまり、売買判断を誤るな」ということだろうか。アンカー(初期値)効果は投資行動に関する重要な心理的効果であり、この存在を常に意識することは確かに重要だ。
 しかし、私が含み損益率を意識しないのは他にも理由がある。
 通常、含み損益を気にする人は各銘柄の自分のリターンへの貢献度を計りたいのではないかと思う。私もそういったことは把握したい。ところが含み損益の管理は、私のようなインカムゲインとキャピタルゲイン狙いの銘柄が入り組んだポートフォリオを持つ長期保有の投資家にとって、貢献度を計るうえで情けないほど役に立たない。
 一般的に、インカムゲインとキャピタルゲインはトレードオフの関係にある。配当性向が高い企業は資本の蓄積が進まないため、獲得した利益を自らが営む事業へ再投資できず、将来の成長がその分抑えられる。一方、利益を配当に回さず自社株買いや事業投資することを優先する企業は、(一株当たり)利益が増加することで投資家にキャピタルゲインをもたらす。基本的に使途のない資金を眠らせたままにせず、還元か再投資のどちらが自社のステージに最適かを常に検討している米国企業においてこのトレードオフは特に顕著だ。
 含み損益の管理は、トータルリターンの内、キャピタルゲインしか考慮できない。例えば私のポートフォリオの上位を占めるIBMとフィリップモリスはどちらもインカムゲイン型の投資対象で、長年私にかなりの額の配当を供給してきてくれた。含み損益はこの貢献を何も反映しない。かといって、単純に両銘柄の配当総額を記録しておけば良いのかというと、それでも致命的な情報が欠落している。
 両社が私に支払った配当は、私が他の銘柄に投資し、その銘柄がさらに配当したり、株価が上昇することによって、私に複利効果をもたらしてきた。受取配当総額の情報は、単利の情報しか与えてくれない。

 そんなわけで、私は含み損益を気にしておらず、それがゆえにポートフォリオ開示にも時価を記載するのみとしている。私が株価10倍狙いの成長株投資家に鞍替えするようなことがあれば、その時は誇らしげに含み損益率を開示することになるだろう。多分、そんな日は来ないが。

2017年4月29日土曜日

マイ・ポートフォリオ(2017年4月末)

年初来リターン (円換算・税・配当込み) +5.3%
投資元本 26.6百万円

全部売却:Valeant Pharmaceuticals Intl.(VRX)
追加購入:Hanesbrands(HBI)


[バリアントについて]
 先月、塩漬けコース確定といったすぐ後に売却した。購入価格での半値撤退というギャンブル銘柄にふさわしい末路と言える。破たんの可能性は相変わらず低いと確信しているものの、既存事業の劣化速度を考えると株価が元に戻るのには数年かかりそうだと判断した。弱含む収益基盤、巨額の負債、超割安なPERという、バリュエーション算定の観点から極めて興味深い企業なので、後学のために業績と株価を引き続きウォッチしていく。ただ、再び購入することはないだろう。

[エクスプレス・スクリプツについて]
 医療保険会社アンセムとの契約が2019年末を持って解消されることがほぼ確実となったPBMのエクスプレス・スクリプツが暴落。アンセムとの取引に伴う利益はEBITDAの1/3を占めるという。現在の予想PERが8.7倍だから、契約満了によるEPS減少を加味した修正予想PERは13倍ということになり割安感は薄れるが、私は基本的にPBMというビジネスの将来性には楽観的な立場を取っている。暴落を好機ととらえて買い増し候補をヘインズからエクスプレスに切り替えるか、当社の自社株買いによる事実上の買い増しに任せるかは少し考えてみたい。
 それにしてもアンセムは私のポートフォリオと因縁が深い会社だ。シグナとの合併破談、エクスプレス・スクリプツとの論争&契約未更新。そして両社から批判されている。エクスプレス社の言い分はなかなか面白いので、次回あたりにその内容を取り上げてみるつもりだ。


購入候補
Hanesbrands (以前よりリストに入っている)
Express Scripts Holding (アンセムとの契約満了懸念で暴落したためリスト入り)