まだある。自社株買いで債務超過会社

 潤沢なキャッシュフローにより、タバコ会社のロリラードやフィリップモリスなどが自社株買いによって債務超過になっていることを以前説明したが、その他にも同じ構造で債務超過となっている会社はある。要するに、還元性向が驚異の100%超えを記録する会社群ということを意味している。では、具体的にそのような興味深いB/Sとなっている企業を確認してみよう。


マリオット・インターナショナル(MAR)
:ホテルチェーン
インターコンチネンタル・ホテルズ・グループ(IHG) :ホテルチェーン
チョイスホテルズ・インターナショナル(CHN) :ホテルチェーン
オート・ゾーン(AZO) :カー用品販売業
ドミノピザ(DPZ) :ピザチェーン
ディレクTV(DTV) :有料放送
ムーディーズ(MCO) :格付機関
ウィン・リゾーツ(WYNN) :カジノ運営
HCAホールディングス(HCA) :病院運営

※時価総額50億ドル以上に限定した


 ホテルチェーンの多さが目立つ。ホテル業界の自社株買い競争も、タバコ業界と同様に熾烈なようだ。
 債務超過ではないものの、時価総額600億ドルの歯磨き粉メーカー、コルゲート・パルモリーブ(CL)も、自社株買いにより自己資本は限りなくゼロに近い。IBMも自社株買いによる過小資本で、同一カテゴリーに属する企業だ。
これらの会社を強烈な株主還元に突き動かす原動力は何なのだろう。高収益なのに債務超過という現象は、ぬくぬく経営のサラリーマン経営者からすれば狂気に近いものを感じさせるのではなかろうか。あるいは、PBR1倍以下なら割安と即断する類の投資家にとっても理解不能な存在だろう。
 これらの企業は、自らの価値がバランスシートの純資産勘定にないことを熟知している。では何に価値を見出しているか。それは自社サービスが提供する無形価値、恵まれた市場特性、そしてそれらが複合的に絡み合った上での自らの企業運営能力に対してではないか。"treasury stock"によって真っ赤になったバランスシートは私にそう語りかけてくる。あくまで謙虚に、しかし自信に満ちた声で。

 ただ注意しなければならないのは、自社株買いが株主にもたらすリターンは、最終的にその企業の株価の本源的価値に左右される。バブルが生じているような状況での自社株買いは当然ながら株主価値を毀損するので、無条件に称賛すべきものでないこともまた確かだ。そして繰り返しになるが、「本源的価値」はPBRとは何の関係もなく、あくまで将来キャッシュフローの割引現在価値という、より抽象的なデータに基づく。そのため、現時点での自社株買いが有利か不利かなど、簡単に判断できるものではない。考えることがたくさんあって、面白いじゃないか。

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