アルファベットという名の会社

Google Inc.が一事業会社となり、新たに設立されるAlphabet Inc.の傘下に入る。以降の上場会社は後者となる。

何が変わるのか。
何も変わらない。
今まで通り、グーグル(アルファベット)・グループは検索型広告も、自動運転車開発も、バイオ事業も、ドローン事業も継続する。
ただ、組織体制だけが変わる。
収益柱の「グーグル事業」は、Google Inc.がそのまま引き継ぐ。ここには検索広告だけでなく、YouTubeやGoogle Maps、Chrome事業も含まれ、今後もこの事業群が新持株会社の屋台骨を支える。
それ以外のベンチャー事業はAlphabet Inc.傘下の独立企業として、Google Inc.と並列に事業を営む。

毛色の異なる事業を複数の事業体に分割して持ち株会社で統括するというのは手垢のついた組織変更にもかかわらず、この発表を受けたグーグル株はナスダックが-1.3%に沈む中4.1%上昇して8/11の取引を終えた。矛盾するようだが、これは当然の反応だろう。今まで株主など存在しないかの如く振る舞ってきたグーグルが行うからこそ、この組織再編は斬新なものとなる。

旧グーグルが行ってきたベンチャー事業は、投資家から金持ちの道楽のような捉えられ方をしてきた。検索型広告事業の収益性と将来見通しにほとんどケチの付けどころがないために、常軌を逸した事業に投じられるあらゆるコストは見逃され、あるいは桁外れの収益の中に埋没し、大企業内の野心的事業たちは心地よいぬるま湯の中にまどろんでいた。
ある者が言った。グーグルはこれらの事業の収益化を本気で目指してなんかいないんじゃないか、単に自分たちの先進性をアピールする目的か、創業者の誇大妄想に誰も異を唱えられないだけではないのか、と。(実際、誰かがそんなことを言ったのを耳にしたわけではないのだが、私の耳にはそういう声なき声が届いた気がするのだ。もしかしたら、それは私自身の声だったのかもしれない)

今回、一番注目すべきなのは、ぬるま湯が溜まっていた栓が、他でもないグーグル自身によって引き抜かれたことなのだ。これでグーグル(アルファベット)は、各事業ごとの収益とコストを可視化せざるを得なくなる。ベンチャー事業の悲惨な収益を何年ものあいだ投資家の目の前にさらし続け、それでもなおAlphabet Inc.は居直るだろうか。とてもそうは思えない。居直るつもりなら、最初から可視化などしない。だから、これはグーグルの野望の発露ではなく、規律の導入に他ならないと考えるべきだ。そして、それこそがグーグルに最も欠けていたピースだった。

長期投資家にとって、企業姿勢の変化というのは重視せざるを得ない投資要因となる。将来収益の割引現在価値の総和である株価は、特にその企業に改善余地が多く残されている場合において大きく動き得る。今現在の小さな身動き一つが、数十年後の未来に多大な影響を及ぼすことは、往々にして起こる。
思えばグーグルの姿勢の変化の兆候は、15年5月、モルガン・スタンレーから引き抜いてきたルース・ポラットをCFOに据えた時から始まっていた。彼女はグーグルに早くもコスト規律をもたらし始めている。おそらくそれは、CEOであるラリー・ペイジが望んだものだ。

ややセンチメンタルな投稿となってしまったきらいはあるが、私のグーグル株への強気は、ほとんど確信に近いものに変わりつつある。

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