[ 銘柄分析 ] 日本動物高度医療センター

 2015年3月にIPOしたばかりで、事業内容は「犬・猫向けの高度医療を行う二次診療専門動物病院」
 海外ではHCAなど病院運営の公開企業が存在するが、日本にとっては当社が初の上場医療機関となる。

 少子化に歯止めがかからない昨今、日本中の愛情に占めるペットのシェアはますます増大し、関連ビジネスは今後も着実な成長が見込まれる。我が家のワンちゃんや猫ちゃんが重篤な病気に罹ったとなれば、数十万円の費用は惜しまないという方々はもはや珍しくないし、それは当社の損益に表れている。私も大学の留年時代、することがなくて一日の予定が飼い犬の散歩しかなかった暗黒時期を経験しているので、「ペットは家族の一員」という感覚はペット・フリークの方々と共有できているはずだ。
 そんなこともあって、ペット用品を販売しているユニチャーム・ペットケアが上場されていた頃、私はこの素晴らしいビジネスを上機嫌で保有し続けていたのだが、いつしか親会社にTOBされて上場廃止となってしまい、大きな喪失感を味わった。以来、ペット関連事業とはすっかり縁が切れてしまった。
 まあ、そんな話はどうでもいい。要は、ペットビジネスは有望で、法外な株価でない限り、魅力的な投資対象だということだ。もともと保険適用が効かないので、将来予想される健康保険制度変更による悪影響から無縁なのもいい。

 当社の業績推移を確認しよう。

 既に損益分岐点は優に超え、ビジネスとして「仕上がって」いるように見える。
 借入金の多さは収益力を勘案すると気にする必要はない。むしろ、このくらいの自己資本比率を維持して欲しいとさえ思うが、日本には借入金が多いことを気にする投資家がやたらといるので、おそらく見栄えの問題で返済は進んでいき、ROEは必然的に低下していくことになろう。見立てでは、15%前後で安定すると思う。ただ、当社の知名度が上がって他病院からの受動的な紹介だけでなく、患者からの指名が入るような事業ベースの好転があれば、自己資本比率とROEの上昇を両立させることは十分可能なはずだ。
(余談だが、なぜこれほど多くの投資家が企業の借入金を嫌うのか私には理解できない。自分自身は平気で30年ローンを組んでマイ・ホームを購入し、家計の自己資本比率は一桁とか、下手をすれば債務超過状態に陥っているにもかかわらず、投資先企業の自己資本比率は高い方が望ましいと考えるのは滑稽なほどの矛盾ではないのか)

 今後の事業展開において、ボトルネックは資金やビジネスモデルの構築ではなく、量的な面での人材確保と考える。
 獣医の供給は年間500人しかない(試験合格者は1,000人いるが、半分は獣医以外になる)ので、そこから競合する大学病院などとパイを奪い合うことになる。
 そうした制約があるため、拠点誘致の引き合いは強いが、1~2年に1拠点の開設スピードを予定しているとのこと。爆発的な成長は望みようがない。だが、それで十分だと私は思う。

 経営者は獣医師でもあるので、対投資家と対飼い主のバランスをどうとっていくのかがやや不安なところだが、対飼い主に対して誠実な仕事をしていれば、利益は自然とついてくるだろう。そのため、私はどちらかと言えば、しばらくは飼い主優先の経営姿勢を貫いて、病院としての信頼構築に努めて欲しいと思っている。

 予想PERは26倍。成長速度を考えると決して割安だとは思わない。投資を検討する場合は気の長い付き合いを覚悟する必要がある。せっかくの上昇相場だから手っ取り早く資産を増やしていきたいという手合いでなければ、こういう珍しい銘柄がポートフォリオの一角にあるのも悪くない。そういう観点で推奨させていただきたい。

 最後にちょっと気になるネガティブなデータを一つ。

犬猫の飼育頭数推移

 出典:一般社団法人 ペットフード協会「平成26年 全国犬猫飼育実態調査」


 意外にも、犬の飼育頭数は既にピークアウトしていることがわかる。猫は横這い。どうも現実には、「ペット業界は有望」とイメージで決めつけてはならない危険な現象が起きているようだ。
 一方、ペットの最大の競合相手であると思しき15歳未満の子供の数も、なんと34年連続の減少を記録している。日本人と愛玩動物の、種の衰退を巡る激しいデッドヒートと言えよう。
 最終的には、主に対子供に対して犬猫が受け止める愛情と、それに比例するお金の量が決め手になるので、単純にワンちゃんの飼育頭数の減少という事実をもってペット市場が成長機会に乏しいと断ずることは控えたいが、「あまり期待しすぎるのは良くない」ということは強調されて然るべきかもしれない。それに、私は人間の子供にも頑張ってほしい気持ちがある。そのあたりを勘案して、予想PER26倍という数値と改めて向き合ってみたい。

コメント

  1. 投稿したコメントが消えてしまいました…。

    ペット産業が儲かるというのは、4310DIを見ても判りますね。
    業績予想をしないので、四季報予想が外れまくる面白い銘柄です。

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    1. 投稿をアップロードした後、むずむずして少し買ってしまいました。
      「病院」「ペット」という食指を動かす二つのキーワードが組み込まれている銘柄を前に、抵抗は困難でしたね。

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