北米リテールはなぜ ”今” 苦しみだしたのか

 アマゾンが北米で実店舗を大量閉鎖に追い込んでいる。私の保有銘柄であるフットロッカーとヘインズブランズは、ともにアマゾンに対する耐性を有していると考えているものの、株価は完全にアマゾンリスクに怯えて冴えない展開となっており、株主としてもアマゾン問題を軽視することは出来ない。

 多くのリテール企業、アパレル企業がここ最近苦しんでいるのを目の当たりにして思うのは、なぜ”今”それが起きているのか、ということだ。アマゾンが急成長しているのは今に始まったことではない。次の表を見るといい。

 もうずっとずっと前から、アマゾンはこの通り信じられない速度で売上を伸ばしてきたではないか。
 しかし、答えは案外簡単なところにあるのかもしれない。上記の数値表に、前年度売上増加"率"だけではなく、増加"額"を入れてみよう。

 増加額の部分だけをグラフにしてみる。

  こうすると、なぜ”今”なのかがはっきりする。売上成長率では見えなかったが、額にするとまさに今、アマゾンは過去最も急速に成長している。2015年度から前年対比の売上増加額は100億ドルの大台を突破し、2016年度に至っては160億ドルも増加している。2015年度の増加額130億ドルと合わせると、2年間で290億ドルの増加となる。
 参考までに、日本が(規模で)誇るイオンの小売事業における直近年度売上高は600億ドルだ。
 売上の絶対額ではなく、アマゾンはあくまで”増加額”だけでこのような圧倒的な数値を叩き出しているのだが、もちろんこれは北米の小売業にとって純増、というわけではない。この間、アメリカの名目GDPは3,4%の成長率にとどまっており、アマゾンの売上成長率25%と比較すると慎ましいものだ。北米GDPの7割は個人消費によるものなので、全体のGDPが3,4%しか増えていないということは、個人消費の絶対額も同じ程度しか増えていないはずだ。
 すなわち、イオンの小売事業売上のおよそ半分に相当するシェアが、この2年間で他の小売事業者からアマゾンに移ったという理解ができる。


 こんな事実を目の当たりにして、我が保有銘柄にとっては取るに足らぬと笑い飛ばすことは到底できない。何となく結論が見えてきたかもしれないが、私は小売関連株を保有したままアマゾン株も取得することとした。2年前に当社を分析した際には「私がアマゾン株を購入することは有り得ないだろう」とまで言っていたのに、随分な変節である。しかし特に恥とも思わないばかりか、こうなったら後付け財務分析により当社がバリュエーションの観点からも購入に値すると言い張ってやるつもりですらある。

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