買収対象のエクスプレス・スクリプツに投資妙味

   バロンズみたいなタイトルで済まない。2018年3月、アメリカ医療保険大手の一角であるシグナ(CI)が、薬剤給付管理(PBM)最大のエクスプレス・スクリプツ(ESRX)買収を発表した。2018年12月に、エクスプレス・スクリプツ1株に対し、現金$48.75、シグナ0.2435株が割り当てられる予定だという。

 そして4月16日時点の両社の株価を見てみよう。

CI $171.65
ESRX $71.62

 小学生でも計算できるはずだが、一応買収が完了した場合のESRX株の価値を下記に示す。
A. 現金 $48.75
B. 割り当てられるCI株 = $171.65 * 0.2435 = $41.8
A+B = $90.55

 ESRXの現在の株価$71.62からは26%の上昇余地があることになる。市場は買収が成立しない確率をかなり高く織り込んでいる。
 一方、シグナは買収発表後にその値を10%強下げており、現在も回復していない。こちらは買収が成立する確率を高く織り込んでいる。
 買収は成立するのかしないのか、一体どちらの可能性が高いのだろう。現時点ではっきりしているのは、これはESRXの経営陣も了承済みの友好的な買収であるという点だ。つまり、買収実行を阻止するものがあるとすれば、司法省とシグナ株主ということになる。

<反トラスト法上の懸念>
 こういう大型買収では司法省が登場する。実際、医療保険同志の合併がかつて試みられたが、司法省に阻止された(エトナとヒューマナ、アンセムとシグナ)。
 これは不合理なことではない。アメリカ医療保険大手は5社しかないので、それが3社に減ったら競争が減って被保険者が不利益を被るという懸念も正当なものといえるだろう。
 しかし今回は医療保険とPBMだ。PBMは医療保険会社の代わりに製薬会社と薬価交渉を行い、フィーを得るというビジネスを行っているため確かに両者の結びつきは強い。とはいえ、補完関係にはあれど基本的には異なる顧客、異なる収益ストリームを持っているので、ヘルスケア業界全体の競争を減じる恐れは少ないように思う。現に、ダウ平均採用銘柄のユナイテッドヘルスは医療保険とPBMの両事業を傘下に持っていて、特に問題視はされていない。

<シグナ株主が買収を否決>
 企業価値を損なうという懸念により既存のシグナ株主が買収を承認しない可能性はある。発表後にシグナ株が下がっていることからも、ESRXの買収がCIの企業価値を棄損するという理屈もあながち不合理な物言いではないのかもしれない。ESRXは2019年末に最大顧客のアンセムとの契約が終了するとはいえ、予想PERは7.5倍に過ぎないが。

<投資家はどうすべきか>
 自分で考えてほしい。少なくとも私は買収が実行される可能性が極めて高いと考えて、ESRXをポートフォリオ1位になるまで取得した。ポートフォリオの順序ではなく、リスク資産の何%まで保有すべきかが今の検討項目となっている。先にも述べたがESRXの足元の業績は堅調そのもので、PERもたった7.5倍なので、仮に買収が不成立となった場合でも下方リスクは小さい。それでも不安な投資家は、ESRXとCIを両方保有してみるのもいいかもしれない。ESRXとCI株は、片方は買収不成立、もう片方は買収成立を織り込んだような株価となっているため、どちらに転んでも果実を得られるという寸法だ。シグナの方も業績堅調で予想PERは13倍と、スタンドアロンでも十分魅力的な株価となっている

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